
親世代が90代以上まで生きることが珍しくなくなった今、子ども世代が相続を迎えるのは60代が一般的です。この年齢になると、自分の住まいも築20~30年が経過し、子どもたちも独立しています。そこへ、老朽化の進んだ実家を引き継ぐことになるのです。60代で別の土地に根を下ろしている場合、実家へ戻って暮らすのは現実的ではありません。古い家を住める状態にするリフォームには相当な出費が伴い、「賃貸物件として活用する」という案も、立地条件が良くなければ入居者を見つけるのは困難です。最終的に、相続した兄弟姉妹や親戚の誰一人として引き取る意思を持たず、売却という形での「実家じまい」を選ぶ家庭が急増しています。
実家相続の難しさは、その不動産の価値によって大きく異なります。地方にある需要の少ない物件や農地を相続した場合、相続者の立場に立って解決策を模索してくれる不動産専門家の存在が欠かせません。空き家問題を専門に扱うコンサルタントや、地域の実情に詳しい業者が、現場に足を運び、地元業者と連携しながら売却の可能性を探ってくれます。反対に、都市部など資産価値の高い実家を相続する場合も別の困難があります。
兄弟姉妹で遺産を分ける際、不動産の価値評価を巡って衝突が起きやすく、特に「時価」での分割を要求されると、実家を受け取る代わりに他の兄弟へ支払う代償金が数千万円規模になることもあります。60代で高額な相続税と代償金を負担し、さらに毎年の固定資産税を払い続けるのは経済的に極めて厳しい状況です。また、兄弟で共有名義にする方法は問題を次世代へ持ち越すだけで、その次の相続では関係者がさらに増え、意見をまとめることが極めて困難になります。
相続発生後に混乱しないためには、「親が元気なうちに家族で話し合う」ことが何より大切です。ただし、お金の話題は親子間でも切り出しにくく、先送りになりがちです。まずは、親の資産状況や収入、実家を将来どうしたいと思っているかについて、家族全員で情報を共有することから始めましょう。お盆や年末年始など、家族が揃うタイミングを活用するのも良い方法です。
それでも難しい場合は、ファイナンシャルアドバイザーなど第三者を交えて話す機会を作るのも効果的です。同時に、実家の「現状」を正確に把握しておくことも必要です。特に注意が必要なのが、土地の境界に関する問題です。昔の土地は境界が不明確なケースが珍しくなく、売却しようとした際に隣家と主張が食い違い、トラブルになる事例は非常に多いのです。境界トラブルの対策としては、売却を検討しているなら親が元気なうちに「確定測量」を実施し、隣地所有者立ち会いのもとで境界を明確にしておくことが最も有効です。費用は数十万円かかりますが、将来の紛争を防ぐためには必要な投資と言えます。また、実家の前の道路が「私道」である場合や、建築基準法上「再建築不可物件」になっていないか、抵当権の設定はないか、相続登記は完了しているかなど、確認すべき項目は多数あります。
相続登記の義務化も始まりましたが、今なお何代も前の名義のまま放置されている土地も少なくありません。放置する時間が長くなればなるほど、選択肢は減っていきます。相続は単なる手続きではなく、家族の将来を守るために、長期的な視点と事前準備が極めて重要です