
日銀が7月末の金融政策決定会合で政策金利を0.25%に引き上げた。その一方で米国は9月にも利下げをすることが織り込まれている。これまで日米金利差の拡大による円安進行から一転、徐々に円高に向かうとされている。
国内外の金融情勢が真逆の動きをする中で、国内の不動産投資市場の方向感はどうなるのか。
金利上昇に敏感に反応するのが不動産投資家だが、米国や欧州のようなスピード感で金利が上昇する可能性は低く、引き続き当面は、金融緩和的なマーケットが続くとの見方が大勢を占めている。
実際、7月末に日銀が政策金利を引き上げたとたんに株価が史上最大の下落幅に見舞われた記憶は新しい。想定外の利上げと米国の経済が想定以上に悪いとの観測が演出した結果だが、その後、国内企業の業績が好調であることをみて株価は急速に戻した。
こうした経験を受けて、日銀は自らが想定しているシナリオ(どういったものかわからないが…)通りに利上げを進めにくくなったことで緩和的な金融環境が続きそうだ。金融政策に詳しいMFS取締役の塩澤崇氏は、「そもそも日本は、利上げにより景気を冷やすような状態ではない」とも指摘している。
中長期的な視点では、日銀の追加利上げは想定内だが、それでも米国など諸外国と同水準の金利になるには数年単位を要するとの見方がもっぱらだ。
日本の長期金利は過去20年以上にわたり2%の水準に達していない。その水準に戻すには国内経済が想定以上の力強さがない限りは20年かかると言う人もいる。
レバレッジ効果が得られる唯一の市場
専門家の話などを総合してみると、国内の金融機関は不動産に対する融資姿勢は基本的に積極姿勢だという。
海外の投資家も日本の賃貸住宅に対する興味が強いとされ、不動産サービスなどを提供するジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)では、「日銀による金利のある世界への誘導が始まったものの、主要市場と比較して低い金利状況により日本は特別な市場であり続ける」とし、引き続きレバレッジ効果が得られる唯一のマーケットで活発な投資活動が続くとみている。
国内に目を転じれば、「キャッシュリッチの地主が収益性を判断して賃貸住宅の建設を検討するケースは依然として多い」(大東建託)と指摘する声や、信託銀行の不動産担当者の「賃貸市場には安定感がある。賃貸住宅は家賃収入が上昇傾向にあり、賃料成長が見込める」といった声も聞かれる。
日銀が政策金利を引き上げたが、そのスタンスとして賃金と物価の好循環が続いていることが利上げの条件であるならば、その経済活動の恩恵として不動産賃料に反映されることが期待できるとの見方である。
そうした点から、建築コストの値上がりを踏まえて子どもに資産を残すために投資戦略を実行するケースは珍しくない。日銀の金融政策の変更後も地主やサラリーマン投資家の投資意欲が落ち込んでいるわけではないようだ。